• 木. 11月 21st, 2024

美学会

The Japanese Society for Aesthetics

美学会だより

このページでは、美学会関係者によるコラムを不定期に掲載しています。

第4回(2024年4月2日)

前会長の吉岡洋です。
ようやく暖かくなってまいりましたが、いかがお過ごしでしょうか。

4月18日(木)より銀座の思文閣ギャラリーにおいて、「うつしの美学」という
展覧会を開催することになりました。小さな展覧会ですが、古作品の模写から唐
紙のうつし、コンピュータ音楽までを視野に入れたものです。記事末尾の趣旨文
をご参照ください。

会期は5月2日までで、初日の18日には出展作家を交えたオープニングトークを行
います。オープニングトークは「うつし」というテーマをめぐって、現会長の吉
田寛さんにもご登壇いただき、東京大学(本郷キャンパス、法文2号館「教員談
話室」)にて開催いたします。以下の思文閣のホームページをご参照ください。

https://gcr.shibunkaku.co.jp/exhibition/007/


うつしの美学
 
 「うつし」は、コピーではない。
 コピーとは、出来上がった形をトレースしたりスキャンしたりして再現するこ
とである。形は似ていても、その形を生み出した動きや変化のパターンと、その
形をトレースしたりスキャンしたりする動作のパターンの間には、なんの関係も
ない。だがそのことはコピーにおいては問題にならない。コピーにとって重要な
のは、オリジナルの形を再現する精度だけだからである。
 それに対して「うつし」においては、形を生み出す動きや変化のパターンを、
ひとつの身体から別の身体へと移すことが目指される。結果としての形が似てい
ることも重要でないわけではないが、その再現の精度を上げることが最終目標で
はない。動きや変化のパターンは固定することができないので、うつす過程にお
いてそれら自体が揺らぎ、うつろう。うつすことは時間を受け入れることであ
り、常に変質や衰退と身を接しながら行われる。
 現代の私たちはコピーという考え方に支配されており、うつすことにまつわる
感性や想像力が衰えている。コピーはその内部に生成原理がコード化されていな
いので、同一のものの反復や保存には適している。それは変質や衰退からは護ら
れている反面、発展や進化の可能性には開かれていない。発展や進化には変異
が、あえて言うならエラーが必要である。それは時間の中での不安定性を引き受
けること、変化を受け入れつつ継承することである。「うつし」とは両義的であ
り、生を抱きつつ死に臨むことであると同時に、死を抱きつつ生を求めることで
もある。
 本展示では、現代や過去における古作品の模写をはじめ、文明の始原から写さ
れ続けてきた文様を伝える唐紙の制作、さらには人間の声に宿る生命を機械合成
によって生成するコンピュータ音楽の試みを、「うつし」というキーワードに
よって考えてみたい。

バックナンバー

第4回(2024年4月2日)

前会長の吉岡洋です。ようやく暖かくなって ...

第3号(2022年10月13日)

 前に書いてから、もう半年過ぎてしまいま ...

第2号(2022年4月18日)

 桜の季節も過ぎていよいよ新年度が本格的 ...

第1号(2021年11月21日)

 このたび十数年ぶりに美学会ホームページ ...